嫌なことを気にしないのは可能?心理学の研究から考える
2026.10.15
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■はじめに
「気にしなくていいよ」
仕事で失敗したときや、人から嫌なことを言われたとき、こんな言葉をかけてもらうこともあると思います。
しかし、そう言われても、気にしないなんて難しいと感じたことはありませんか?
そもそも、人間は自分の意思で、嫌なことを気にしないようにできるのでしょうか。
心理学では、嫌な記憶を意識的に考えないようにすることや、不快な感情を抑えることについて、さまざまな研究が行われています。
今回は、こうした研究をもとに、人間が「気にしない」ということは本当に可能なのかを考えてみたいと思います。
■嫌なことを考えないようにすることはできる?
2022年、イギリスの研究チームは、34人の大学生を対象に、自分の過去の記憶を意識的に思い出さないようにできるのかを調べる実験を行いました。
まず、参加者には、自分が過去にしたよくない行為と、よい行為をそれぞれ10件ずつ思い出し、一つひとつに短い題名をつけてもらいました。
例えば、論文では「他人の車を傷つけたのに、何も言わずに立ち去ってしまった」という出来事に、「車の事故」という題名をつけた例が紹介されています。
翌日、研究チームは、その題名をパソコンの画面に表示しました。
このとき、緑色の文字で題名が表示されたら、その出来事を詳しく思い出してもらいます。反対に、赤色の文字で表示されたら、題名を見ながらも、その出来事を頭に浮かべないようにしてもらいました。
つまり、「車の事故」という文字を見て、過去の出来事を思い出しそうになっても、自分の意思で思い出さずにいられるかを試したのです。
参加者には毎回、実際にその記憶が頭に浮かんだかどうかを回答してもらい、同じ課題を何度も繰り返しました。
その結果、思い出さないように指示されたにもかかわらず、記憶が頭に浮かんでしまった割合は、実験の前半では約25%でしたが、後半には約12%まで減少しました。
つまり、繰り返し記憶を抑えようとすることで、意図せず思い出してしまう割合がおよそ半分になったのです。
この結果から、人間には自分が経験した出来事を意識的に思い出さないようにする能力があり、その働きは繰り返すことで高まる可能性があると考えられます。
ただし、記憶が頭に浮かぶ割合は減ったものの、まったく思い出さなくなったわけではありません。
実際に経験した出来事についても、意識的に思い出すことをある程度抑えられるというのは興味深い結果ではないでしょうか。
■嫌な気持ちも、抑えることができる?
先ほどの研究では、人間には嫌な出来事を意識的に思い出さないようにする能力があることがわかりました。
では、落ち込んだり、腹が立ったりする気持ちも、自分の意思で抑えることができるのでしょうか。
例えば、仕事で上司から注意されて落ち込んだとき、次のような対応が考えられます。
| 感情を抑える | 「落ち込むな」「嫌な気持ちになるな」と、自分の感情を抑えようとする。 |
| 注意をそらす | 落ち込んでいることから一度離れて、別の作業などに意識を向ける。 |
| 捉え方を変える | 「注意されたのは仕事の進め方であって、自分自身を否定されたわけではない」と考え直す。 |
2012年、イギリスの研究チームは、こうした感情を調整する方法について、306件の実験的比較をまとめた研究を発表しました。
その結果、先ほどの例でいうと、1つ目の「感情を抑える」方法には、平均的な効果が認められませんでした。
一方、2つ目の「注意をそらす」方法や、3つ目の「捉え方を変える」方法には、不快な感情を弱める効果が認められました。
つまり、嫌な感情を直接抑えることは難しいものの、別のことに意識を向けたり、出来事の捉え方を変えたりすることで、気持ちを和らげることはできるということです。
■まとめ
ここまでの研究を踏まえると、嫌なことを完全に気にしないようにするのは難しいものの、気になる程度を和らげることはできると考えられます。
そのため、何かつらいことがあったときは、完全に気にしなくなることを目指すのではなく、まずは少しでも気になる程度を和らげることを目標にしてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
[1] Satish, A., Hellerstedt, R., Anderson, M. C., & Bergström, Z. M. (2022). EEG evidence that morally relevant autobiographical memories can be suppressed. Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience, 22, 1290–1310.
[2] Webb, T. L., Miles, E., & Sheeran, P. (2012). Dealing with feeling: A meta-analysis of the effectiveness of strategies derived from the process model of emotion regulation. Psychological Bulletin, 138(4), 775–808.
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